暑い夏を乗り切る伝統の知恵 中国の「三伏」の過ごし方

毎日毎日、うんざりするほどの暑さが続く。まさに今は一年で一番暑い時期だ。この暑さ、いったいいつまで続くのか。

ところで、日本で「夏の一番暑い頃」といえば一般的に7月下旬から8月にかけてだろうが、その明確な定義はない。一方、中国ではこの期間を「三伏(さんぷく)」と呼び、始まる日と終わる日が暦の上できっちり決まっている。今年は7月15日から8月23日までの40日間だ。

■「三伏」とはなにか

「伏」には、暑さを避けて身を潜めるという意味がある。暑いのだから引っ込んでいろ、というわけだ。古くは秦の徳公二年(紀元前676年)に「初伏」を行って犬を犠牲にし、暑気と疫病を祓ったことが『史記・秦本紀』に記されており、その歴史は約2700年に及ぶことになる。

「三伏」とはこの「伏」を「初伏・中伏・末伏」の3つに分けたものの総称だ。夏至(6月21日ごろ)から数えて3回目の「庚(かのえ)」の日から初伏に入り、4回目の「庚」からが中伏となる。末伏だけは数え方が違い、立秋(8月7日ごろ)を過ぎて最初の「庚」の日から始まる。

初伏と末伏はどちらも10日間だ。十干の「庚」は10日に1度巡ってくるから、中伏に入って10日後の「庚」がすでに立秋を過ぎていれば、そこで末伏に切り替わり、中伏も10日間で終わる。ところがその「庚」がまだ立秋前だと、末伏の入りは次の「庚」まで持ち越され、中伏はその分20日間に延びる。

まさに今年がそうで、三伏は全体で40日間になった。例年より長い期間にわたって暑さへの備えが続くことになる。

■「三伏」に一体何をするのか

では、この期間に人々は何をするのか。基本の姿勢は、暑さに逆らわず、体への負担を減らしながら過ごすことにある。ただ暑さに耐えているだけでは食が細り、汗とともに体力まで抜けていってしまう。

そこで大切になるのが食べ物だ。中国では初伏・中伏・末伏それぞれに、食べるべきものが決まっている。

■初伏は餃子から

三伏の食べ物については「初伏に餃子、中伏に麺、末伏に烙餅と卵の炒めもの」という言い回しが広く知られている。並べてみると全部が小麦粉の料理で、この習わしが北京や天津、河北、山東といった小麦の産地で育ったことがうかがえる。

三伏に入ると暑さで食が細り、体重まで落ちていく。中国語には、これを指す「苦夏」という言葉がある。初伏の餃子は、食欲を取り戻して「苦夏」を脱するための一皿だ。加えて、餃子は昔の銀貨に形が似ており、しかも「伏」は「福」と同じ音になる。福を迎え入れるという縁起も重ねられている。

■中伏には麺をすする

中伏は二十四節気の大暑と重なり、気温も湿度も一年でいちばん高くなる。

そこで食べるのが熱い麺だ。暑い日に熱い麺は荒療治のように思えるが、汗をかいて体にこもった熱と湿気を追い出すのだ。暑いから冷たいものをとるという方法では得られない独特な爽快感がある。

なお、南方では金銀花(スイカズラ)や薄荷、蓮の葉を煮出した温かい「伏茶」を飲む習慣もある。

■末伏に食べる烙餅

末伏は、立秋を過ぎてから始まる。暦の上ではもう秋に入っているのに、暑さは残る。まさに「残暑」だ。立秋を過ぎてぶり返す暑さには「秋老虎(チウラオフー)」という名前がついている。虎のように暴れる残暑、という意味だ。

厳しい残暑の中で食べるのは烙餅(ラオビン)と卵の炒めものだ。烙餅は小麦粉を平たく焼いたもの。卵は栄養満点の食べ物であり、暑さで弱った胃腸や低下した体力を、秋に向けて立て直すための組み合わせと言える。

かくして「三伏」にはそれぞれ食べるべき料理があるが、食事において期間を通して注意すべき点もある。冷たいものを摂りすぎないよう気をつけ、スイカや緑豆、冬瓜など熱を逃がすとされる食材を取り入れるのだ。

■食べるだけではない

「三伏」にやるべきことは、食事だけではない。そのひとつが「冬病夏治」だ。一年で陽気がもっとも盛んな三伏のうちに手を打っておけば、冬に悪化しやすい不調を抑えられるという中医学の考え方で、代表的なのが生薬を練った貼り薬をツボに貼る「三伏貼」になる。中医学の病院や診療所に「三伏貼」を求める人が列を作るのがこの時期の風物詩だ。

暮らしの心得も細かい。夏は日が長く夜が短くなるのに合わせて遅寝早起きを心がけ、最も暑い11時から13時に短い昼寝を挟むことで睡眠を補う。そして、エアコンの温度設定は26度前後にし、室内と外の温度差は8度以内という現代的な指標まで示されている。

■実は日本の暦にも「三伏」はある

ここまで中国の話を続けてきたが、三伏という言葉は中国文化の影響を受けてきた日本の暦にも載っていて、俳句では夏の季語になっている。

一方、日本の三伏が指すのは庚の日そのものであるうえ、新しいことを始めたり旅に出たりするのを慎む日とされてきた。 同じ「三伏」という言葉でも、中国では生活の知恵として受け継がれ、日本では暦の言葉として残った。その違いは日本と中国の間にある風土や文化の違いを映し出している。

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